靖国神社、本質的な誤解で美化されている
靖国問題と絡んで、例によって、小林よしのりが、関連作品を集めた本を緊急出版。靖国は、日本の伝統的な信仰であって、戦争の賛美じゃない、みたいなことで、アジア諸国からの反論をかわそうとしているのだけれど、ちょっと待った。
グロービスの堀さんも「日本人は死んだ人を神として祀った」というようなことが書いているけれど、そういう思想そのものが、明治期の国家体制を整えるあいだにつくられた、ねつ造、という言い方が悪ければ、「体制を支える新しい思想」である、という事実は、知られていない。
で、以下は、amazonに載った「dvc-maniax」という人の書評。
博物学者の南方熊楠が熊野の神域破壊に異議を唱えたのも、こういう明治政府の廃仏毀釈に対する反論だし、一方、国家の側にいて、「新しい思想」の作り替えに奔走していたのが、民俗学者として知られる柳田邦男というわけだ。
伝統だとか、古くからの精神性、というような説明は、あやしいぞ。左下にある「伝統とは何か」(大塚英志)も読んでみてください。
新ゴーマニズム宣言SPECIAL靖國論
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/flex-sign-in/ref=cm_rate_rev_pagepos3/250-3048710-2253034#rated-review
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ごく一般的な宗教史家としての見解, 2005/08/09
レビュアー: dvc-maniax (プロフィールを見る)
この本をマンセーするすべての人に問いたいのは、みなさんは「靖国神社」と「天皇」との関係をどのように位置づけるのか、ということです。
靖国神社の宗教体系の根幹をなす思想は、「『神』である天皇が祭祀するからこそ、亡くなられた兵士たちの魂が、『英霊』として昇華することができる」という思想です。(これはきちんと靖国神社の縁起に書かれています)
この靖国信仰の「核」となる祭祀神・天皇との関わりを抜きにして、単なる建築物としての靖国神社の機能は作用しません。(現在の責任者である宮司は、本来の意味からすれば単なる管理人以上の存在ではありえません)
戦前の多くの素朴な日本人たちは、純粋に宗教的な信仰に基づいて、「天皇は神である」と信じていたようですが、現在の日本人のうち果たしてどれだけの国民がこのような純粋さを持ち合わせているのでしょうか? みなさんは、本当に心の底から、疑いなく、天皇は神であると信じられますか?
もしそれができると答える人がいるならば、私はその人にはこれ以上何も言うことはありません。どうぞその揺るぎない信仰心に基づいて、世間の人々に対して靖国信仰の布教活動に励んでください。
そうではない、天皇が神であるというのは日本古来の伝統に基づいた、政教一致の政治体制に則った、マツリゴト(祭祀=政治)を司る主体としての、我々一般人とは隔絶された特別な存在としての「カミ」である、うんぬん……などという、聞いたような口をほざく人は、お願いですから日本の宗教史を勉強しなおしてください。
宗教史や民俗史を学んできた者にとっては、靖国神社という存在が、幕末から明治期にかけての国学者たちによってデッチ上げられた、本来の意味での神道的信仰とはかけはなれた存在であるということは常識です。日本古来の伝統文化とは縁もゆかりもない「奇形」と言ってもいい存在です。そもそも、日本古来の伝統文化の最大の「破壊者」が、明治政府であるということもあまり知られていません。(明治期の政府による廃仏毀釈運動によって、75%以上の寺院が破壊された)
つまり、靖国神社とは、我々、宗教史家たちがこよなく愛する日本の伝統文化(純粋な意味での神道、仏教、儒教、その他の民間信仰)を、非道にも破壊しつくした果てに誕生した、国家イデオロギー装置でしかありえないのです。つまり、靖国を伝統文化論の立場から擁護するのは完全なる誤りであるといえます。
純粋な感情から靖国神社を弔われる方々の感情を多々害する論ではありますが、ごく一般的な宗教史家の見解としてお聞きください。
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Comments
はじめまして。この記事でこちらのblogを知り、以降ときどき読ませていただいています。
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Posted by: まきこ | August 30, 2005 07:28