Alfa147、first impression! -2- 「セレスピード」
最新のアルファロメオを語るときに必ず登場するのが、セレスピードと呼ばれるトランスミッションです。
クルマに詳しくない人のために、細かく説明しておきましょう。クルマには必ずトランスミッションが搭載されています。いわゆる「ギア」です。クルマのエンジンはせいぜい7000回転程度しか回ることができず、そのわりにトルク、つまり車輪を回転させる力はたいしたことがありません。しかも、燃料を入れたからといってそれだけで自力で回り出すことはできないので、停止中もアイドリング、つまり空転させておく必要があります。
これがモーターだと勝手が違います。モーターは電気を供給すれば自力で回転しはじめ、ゼロ回転から1分間に数万回転まで、電力を供給すればどんどん回ります。低回転でもトルクが十分あるため、そのまま車輪を回してい、止まった電車を動かすことができます。
エンジンでは、低回転ではトルクが乏しいので、やや回転を上げてやらないとクルマを動かし始めることができません。そこで、回転を上げつつ、滑らせながら動力を伝えるクラッチが必要になります。またそのまま回転を上げても、せいぜい時速50kmぐらいまでで頭打ちになってしまうので、ギアの比率を切り替えないと、高速がでません。あるいは別の言い方をすると、高速まででる比率のギアだと、止まっている車を動かし、加速させるだけのトルク(回す力)が出ないのです。
というわけで、クルマにはエンジンの回転をタイヤの方につないだり、切り離したりするクラッチと、ギアの比率を変えるトランスミッションが必ず必要になるわけです。
で、そのクラッチとミッションは、以前は左足で操作すると、左手で操作するマニュアルトランスミッション(MT)が主流だったわけですが、今はオートマチックトランスミッション(AT)が主流になってきました。ATでは動力を切ったりつないだりするために、流体クラッチ(トルクコンバーター=トルコン)を使います。エンジンからとミッションのあいだに流体を流し込んだトルコンをおきます。この液体に回転して高温になると固くなる性質を持たせておくと、まずエンジンが回ってその動力で液体が回ると、じょじょに液体が固まり、ミッションの側に動力を伝えるようになり、逆に回転が落ちると柔らかくなり、エンジンが空転できるようになるというしくみです。
こうするとクラッチを使わなくても、エンジンとミッションとの間を自動的につないだり、切り離したりできるようになり、スムーズにクルマが動くのです。しかし、このしくみではいくら回転によって流体が「固くなる」といっても、しょせん流体によって伝えられている状態なので、常にわずかに「空転」している状態です。これが「トルコンスリップ」で、AT車は燃費の面と、エンジンの回転と加速のダイレクト感の面でも、MT車にやや劣る原理的な理由なのです。
といっても今はトルコン+ATの性能もかなりよくなっているので、燃費面でも実質的な加速感も、ほとんど劣りません。しかし、フィーリング面でのダイレクト感、スポーティ感はやはりMTにメリットがあり、ここがスポーティーカーをつくるときの大きなポイントになってくるわけです。
90年前の創業時点からレースに勝つ車を作り続けてきたアルファロメオとしてはイージードライブとスポーティネスをどうやって両立させるかが大きな関心事で、セレスピードはその回答なのです。
で、そのセレスピードはMTに自動制御のクラッチを組み合わせた技術で、ツーペダルMTとかシーケンシャルMTなどと呼ばれています。もともとはF-1レースですばやくシフトチェンジする技術として生まれた経緯があるのですが、人間が脚でクラッチを踏み、シフトチェンジしてクラッチを放す動作より、機械の動作のほうが速くできるほど、技術が進歩したことによって生まれました。同様の思想は以前からあり、日本でも1980年代にいすゞ自動車が乗用車にNavi-5というシステムをつけて発売したのですが、当時の制御技術ではぎくしゃくして実用には耐えませんでした。
そんなわけで、セレスピードもまだ同様の問題を抱えていて、シフトアップの時のぎくしゃく感、つんのめり感が課題です。一方、いったんクラッチがつながってしまえば、アクセルワークに直結したダイレクトなドライビングフィールが味わえること、トルコンスリップによるロスがないというメリットがあるのです。
このシステムは、生産者ではドイツのフォルクスワーゲンも発売しているのですが(以前僕も試乗したゴルフV GTX>I、それに兄弟車のAudi A3など)、こちらはDSG(Direct Shift Gearbox)という名称で、制御のシステムとしてはセレスピードよりもかなり洗練された機械です。実際、DSGになると、もはやトルコン+ATか、DSGかという選択肢は意味がないほど両者は感覚的に近く、シフトアップもshiftダウンも、機械任せでまったく人間が関与する必要がありません。今どのギアに入っているかも考えるのがばかばかしくなるほどなので、これはただのATだなという感じであり、むしろ「これからのATはすべてDSGになるな」予感させるほどです。実際コストや重量面でもDSGの方が優れているようなので、近い将来ATの多くがDSG(というかシーケンシャルMTに置き換えられる可能性が高いと思います。
でも、そうなると、自分でクルマを操縦しているというドライブフィールはどうなるの? という部分が逆に残ってしまい、同じ形式のシステムでも、洗練度の高いDSGより、人間が関与しないとうまく動かないセレスピードの方がおもしろい、という逆説が生まれてしまうのです。アルファは運転しているという実感を持たせるために、セレスピードをあえて洗練させすぎずにおくのだという気がするほどです。
ちなみにセレスピードもまCityモードという自動的にシフトアップ&シフトダウンする完全なATモードがあります。しかしこれにお任せにしておくと、やはりぎくしゃく感がときどき出るので、自分でシフトチェンジを操作した方が、スムーズに乗れるようです。
とはいえ、こんなわけなので、セレスピードはある意味、マニュアル車より難しい部分があり、僕自身、これをどう乗りこなすか、まだうまくつかめていない感じで、クルマと対話しながら載っている段階です。逆に、友だちにドライバーズシートを明け渡しても、自分と同じようには運転できないだろうというプライドが持てそう、ということでもありますが、まあこういうプライドは実際的な意味はあまりない、取るに足らないものです。でも、現代のようにものが汎用化し、安全で実用性が求められる時代では、自動車は誰が乗っても差がなく乗りこなせる機械になっています(かつては高性能車はなれた人しか運転できないクルマでした)。セレスピードは基本的な汎用性や安全性(誰でも乗れるという)は確保しつつ、なれた人ならうまく運転できるという気持ちを持たせてくれるという意味で、アルファというブランドらしさをうまく表現しているのだと思います。はっきり言って、ふつうのクラッチ着きのマニュアルの方がずっとスムーズに乗れそうです。
とはいえ、まだ新車600kmのインプレッションで、機械のほうもまだ動きが渋い部分があると思います。距離が伸びるとじょじょに機械自体のなじみも出てくるはずです。そのあたりはまた順次レポートします。
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