言論の自由の意味を、市民が忘れかけている危険
日本は憲法で言論の自由が保障された国だとみんなが理解していると思うけれど、実態が少しずつ変ってきています。反体制という言葉自体が時代遅れに感じられる今日この頃だけれど、時の権力者に反対する言論を行う権利は100%保障するというのが憲法の趣旨だし、それが民主主義の根幹を支える、というのが、先人が生み出してきた賢明なルールでした。
では言論の自由というのはなんでしょうか。
雑誌やテレビなど、マスメディアが権力に影響されず、自由に発言できるというのも大切ですが、誰にでもアクセス可能な言論の場は、街頭での演説やチラシ配りなど、自分の手に届く範囲での言論であるはずです。
その、チラシ配りを行った人物が逮捕されるという事件が続いて言います。マンションに入って、憲法改正や国旗国歌の制定に反対するチラシをポストに入れたという行為が、「家屋の不法侵入に当たる」というわけです。だったら、毎日のように投げ込まれる風俗のチラシや不動産物件の広告は家屋の不法侵入にならないのか? それで逮捕されたという例は聞かないし、逮捕されるのは右翼的な思想ではなく、必ず左翼的な反体制の思想のチラシの時ばかりです。
今回の以下の決定は、「チラシ配り」の人物を逮捕したあと、裁判所がその拘留を認めなかったという事件なので、ちょっとだけまともな判断が下されたということですが、そもそも逮捕自体がまったく不法である可能性が高いので、当然といえば当然の結論です。
ここで気になるのは、こういう市民の権利に対する重大な侵害が行われているのに、多くの人が無関心である点で、「社会の秩序を乱そうとする者は悪い人」というような単純な思いがあるからではないでしょうか。社会の秩序を暴力的に破壊するテロリズムは否定されなければなりませんが、言論によって既存の秩序の問題点を訴える権利は徹底的に保障されなければなりません。この違いを僕らはきちんと身につけられておらず、「秩序を乱す者=テロリスト」というような直感的な理解をしているのではないでしょうか。
かつて、日本も反体制の言論を行っただけで、それも隣近所で話しただけで、密告され、政治犯にされる時代がありました。僕らが子どものころは、そういう時代を扱ったTVドラマもたくさんあったのですが、今はそれさえなくなっていて、言論の自由がない時代、政治犯が生まれる時代が、どれほど恐怖の時代か、みんながピンと来なくなっています。そういうピンと来ない状況こそ、言論を封じて政治を恣意的に動かそうとする政府には、一番やりやすいのです。
ブッシュ政権は国内のマスコミの支配を強め、反体制的な大マスコミをほぼ消し去りました。その方法を小泉政権も学んでいるはずで(官邸主導の政治というのも、それをやりやすくしています)、もともと骨抜きだったマスコミは、NHKの番組検閲事件で徹底的に縮み上がりました。放送局の免許は政府が握っていて、しかも「報道の中立性」という枠で縛られています。ちょっと反体制的な言論も、「中立ではない」と言われれば、糾弾されてしまう脆弱性があるのが放送業界です。
市民が言論の自由を守ることに意識を向けなければ、政権にいる側が、それを守ってくれるわけではないのです。
▼asahi.comより
「日の丸反対」ビラ配り、勾留認めず 逮捕の2人釈放
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http://www.asahi.com/national/update/0307/TKY200503060212.html
東京都町田市の都立野津田高校の敷地で日の丸、君が代に反対するビラを配ったとして、男性2人が警視庁に建造物侵入容疑で逮捕された事件で、東京地裁八王子支部が2人の勾留(こうりゅう)請求を却下したことがわかった。検察側が申し立てた準抗告も棄却され、2人は6日に釈放された。2人は取り調べに黙秘していた。
町田署によると、2人は4日午前8時45分ごろ、ビラを配るため同校の敷地に侵入した疑いで現行犯逮捕された。
この日は同校の卒業式で、2人は正門の外のバスのロータリー周辺で生徒や父母にビラを配っていた。ロータリーも同校の敷地内のため、教員が注意したが立ち去らず、通報で駆けつけた署員が退去を求めても従わなかったという。公安部は2人について左翼系の活動家だとみている。
弁護人は「ビラを配っていた場所は校門の外でバスの停留所もあり、一般人の立ち入りが制限されるような建造物ではない」と主張していた。
川津良幸町田署副署長は「敷地外に出るよう学校側が何度言っても2人は立ち退かず、警官の指示にも従わなかった。適正な捜査であり、釈放は残念だ」と話している。2人のうちの1人は「どこまでが敷地か確認し、すぐに敷地外に出て公道で配っていた。警官は警告もなしにいきなり車の中に引き込んで逮捕した。許せない」と話している。 (03/07 06:49)
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Comments
ピンクチラシや不動産で逮捕されていない最大の理由は、「わざわざ通報するやつがいない」しかも「警官が来るまでその場に居座ったりしない」ことでしょーか。
しかし、「中立性」というのであれば、政府に対して、0と+ばかりの報道ではなく、+の報道をしたのと同程度の-の報道もしてほしいところ。
# 中立なのは解説とかの枝葉だけであって、放送するしない・構成をどうするといった根本的なところでは、+しか出てこないからなぁ・・・(+の記事を中立に評価、+の記事を中立に評価・・・/かといって、ラジオのパーソナリティのようになんでもかんでも自分の意見を付け足して騒いでいればよいというわけではないけど。)
Posted by: うぇいく | March 07, 2005 14:21
ピンクチラシで通報する人は少ないでしょうけど、いないわけではないだろうし、でも通報したとしても警察が本気で調べているとは思えませんね。ストーカーだって、殺されるまでろくに対応しなかったという例も珍しくないので。
政治的なチラシで警察が動くのは明らかに政治的な上層部からの指示でしょう。今回の記事では「学校の前で君が代反対」なので、イシューそのものが石原都知事のコンセプトと一致します。明らかに政治的な意図がありますね。
Posted by: paco | March 07, 2005 15:27