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焼き魚のエキスパートとライフデザイン

asahi.com「be」に焼き魚のエキスパートの女性が紹介されていました。

おいしく魚が焼ける、というのは、ひとつの特技であって、Favoriteなんだと思います。もちろん、彼女にとっては「そんなものは仕事であって、Favoriteなんかじゃない」ということかもしれませんが、正月休みも取れないのに辞めない、というのは、単に仕事のためとはとても言えないでしょう。

日本人は基本的にまじめだし、こういう「いい仕事をしている」のに

asahi.com「be」に焼き魚のエキスパートの女性が紹介されていました。

おいしく魚が焼ける、というのは、ひとつの特技であって、Favoriteなんだと思います。もちろん、彼女にとっては「そんなものは仕事であって、Favoriteなんかじゃない」ということかもしれませんが、正月休みも取れないのに辞めない、というのは、単に仕事のためとはとても言えないでしょう。

日本人は基本的にまじめだし、こういう「いい仕事をしている」のに「アルバイターやパートタイマー」という人はとてもたくさんいると思います。今や企業は正社員を極力減らす方向にあり、エキスパートと呼べる仕事や、その会社になくてはならない仕事も多くをアルバイトやパートに任せています。このことは、アルバイトパートの低賃金、保障のない雇用で、多くの人が企業に、喜んで貢献している、という状況を示しています。

働き手としてみた場合、本当に誰にでもできる仕事をするよりも、「本当においしい魚が焼けるのはこの人!」という仕事をしたいというのは当然の気持ちで、その点、この女性は「いい仕事」をしているのですが、それにしては、評価も処遇も悪すぎると言えます。

いくら焼き方がうまくても、しょせん魚焼きは魚焼き、と、スーパーマーケットが考えているとしたら、それこそとんでもない勘違いで、こういう「おいしい食材」を提供するからこそ、お客が来ているというのが今の時代です。そんなことは企業もわかっていて、わかっているけれど、上手な魚焼き職人をパートとして使っている、という確信犯であると考えるべきです。理由はいろいろあるでしょうが、ここでは理由はほっておきましょう。

で、僕はこういう人にこそ、せっかくの魚焼きの技術と情熱を、スーパーに不当に吸い取られる状態に甘んじるのはやめて、技術をテコに独立するというライフデザインを提案します。

具体的にはこんな感じです。この女性は、まず、自分の魚焼きの技術をもっと評価するように、会社に徹底的に主張します。でも会社はまずそういう主張を受け入れないはずですから、店長レベルに「満足していない、不当な扱いだ!」ということを十分理解させたら、適当なタイミングで辞表を出します。その間に、働いていたスーパーの近くに2~3坪程度でいいので、掘っ立て小屋のような店を借り、「魚焼きます」ショップを開く。「魚はどこで買ってきてくれてもOK」賭しておきます。つまり、スーパーで生の魚を買ってきて、この女性の店に持ち込み、焼いてもらうわけです。待ち時間の問題がありますが、スーパーのごく近くに店が開ければ、お客はまずスーパーで魚を買い、女性の店に持ち込んだ上で、他の買い物をして、全部終わったあとに焼き上がった魚を引き取って帰るようになるでしょう。

魚焼きの道具は、今はプロ用の厨房機具のリサイクルショップもあるので、易く手に入れることできます。店の面積も狭いので、レンタル料金もかなり抑えることができるでしょう。すでにスーパー店内で焼いているわけですから、1日7時間働いて何尾ぐらい焼けるか見当がつくでしょうから、自分のパートの時給が残るだけの利益を確保出る値付けにすれば、価格も競争力があるようにできるはずです。スーパーの総菜コーナーより、生魚+焼き代の方が易くなるように設定できればいいのですが、ここの計算が一番重要です。

で、元手と利益計画ができたら、問題を洗い出しておきます。スーパーで総菜の焼き魚が売れる時刻は決まっている可能性が高く、スーパーではその時間帯に合わせて、前倒しで魚を焼いているはずです。魚焼き店ではその時間に依頼が集中する可能性があり、それがボトルネックになる可能性があるので、それが収益計算のポイントになります。店が成功すると、スーパーから圧力がかかる可能性もあるので、そこをどうやってクリアするかも問題です。

と言うようなことを考えつつも、うまく軌道に乗って繁盛すれば、1店舗で満足せず、最終的には、魚焼きのノウハウを標準化し、あらためてスーパーのテナントとしてショップインショップに入ることを目標にするとよいでしょうね。これができれば、ちょっとした財産が築けます。

パートの熟年女性にそこまでは無理、と思うかもしれませんが、なんのなんの。軌道に乗るようなら、ご主人も巻き込んで、ビジネスのノウハウももらって本格起業すればよいのです。これを、「老いては妻に従え」勝ちパターンといいます。
カツサンドで有名なまい泉は奥さんが始めたトンカツ店が繁盛し、早期退職したご主人が加わってそれをビジネスとして発展させました。

簡単とは言いませんが、できない話ではないのです。

で、以下、元ネタの記事です。
焼き魚のエキスパート
田中 和彦(キネマ旬報社代表取締役専務)
───────────────────────
http://www.be.asahi.com/20050212/W14/0025.html

「パートなんだからいつだってやめられる」

3年前、近所の大手スーパーの食品売り場で働き始めたとき、Tさん(57)はほんの軽い気持ちだった。子どもが成人し、持て余すようになった時間を、有効に使えればよかった。

出社すると、仕事は機械的に振り分けられた。刺し身担当、盛り付け担当、値付け担当……かつて外資系金融機関で秘書をした経験もあるというTさんに回ってきたのは、総菜売り場に並べる焼き魚の担当だった。

それ以来、先輩から、串の刺し方や炎の調整、魚を裏返すタイミングなどを教わり、明けても暮れても魚を焼き続けてきた。

今やベテランの仲間入りをし、「焼きのエキスパート」と呼ばれるまでに。大型バーナーの前で、一度に何種類もの魚をその特徴に応じ、適度な加減に焼き上げていく。彼女の焼いた魚は、買い物客の主婦のめがねにもかない、特によく売れるという。

楽な仕事ではない。髪や服ににおいもつく。何度か他の業務への担当替えの希望を出したが、聞き入れてもらえなかった。去年も今年も正月に休めず、夫には申し訳ないことをしていると思う。

だけど手が抜けない。

「自分が焼いた魚が食卓に載ることをイメージすると、いい加減な仕事はできないと思ってしまうんです」

実はTさんの勤務するスーパーは、本体の業績不振からの大幅なリストラが進む。多くの店でマネジャークラスの正社員が出向や退職で次々と姿を消していく。

一方で、彼女に代わるような人材は簡単に見つかるものではない。

「引退も考えるんですけど、当分辞めさせてもらえそうにありません」

ゼネラリストの正社員より手に職のあるパートタイマー。大規模チェーンが火花を散らす日本の小売業界は、Tさんのような存在に支えられているに違いない。

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