環境生活のススメ──衣類を買う
木綿の服と、ポリエステルなどの化学繊維の服だったら、環境にどちらがよいと思いますか? 普通に考えて、やはり木綿のような自然素材のほうが環境によいと思うのが普通です。ちなみに、代表的な天然繊維と化学繊維を整理しておきましょう。
・天然繊維
木綿(コットン)→綿花という草の「実」から繊維をとる
絹(シルク)→……
木綿の服と、ポリエステルなどの化学繊維の服だったら、環境にどちらがよいと思いますか? 普通に考えて、やはり木綿のような自然素材のほうが環境によいと思うのが普通です。ちなみに、代表的な天然繊維と化学繊維を整理しておきましょう。
・天然繊維
木綿(コットン)→綿花という草の「実」から繊維をとる
絹(シルク)→カイコという蛾の幼虫がまゆ(さなぎ)をつくる時にはき出す
クモの糸のような繊維を、まゆからほぐしてつくる
ウール→羊の毛を刈り、糸にしたもの
カシミア→インドのカシミール地方原産の山羊の仲間の毛
アルパカ→主に南米で飼育されている小型のラクダの仲間の毛
アンゴラ→アンゴラはトルコの首都アンカラの旧名。アンゴラ山羊やアンゴラ
ウサギの毛を糸にして、衣類をつくる
・化学繊維
レーヨン→木材パルプや綿花に含まれているせんい素(天然の高分子)を一
度薬品で溶かし、せんいに再生します。
アセテート→せんい素や蛋白質のような天然の材料に化学薬品を作用させて
からせんいに再生したもの。
ポリエステル/ナイロン/アクリル→石油などを原料として、化学的に合成され
た物質から作り出された繊維。合成された物質の違いによって、さ
まざまなせんいがつくられています。
さて、こうして天然繊維と化学繊維を並べてみると、やはり天然繊維の方が環境によさそうな気がします。実際、着用しても、肌着など直接皮膚に着る服には木綿など天然繊維のほうが使われますから、人に優しいなら自然にも優しいに違いないと考えがちです。ところが、実際にはそうとも言えないというお話です。
綿花の世界最大の生産地はインドです。インドに限らず、綿花の生産は、プランテーション(昔、社会や地理の教科書に出てきました)と呼ばれる、単一作付けの大農園でつくられます。あたり一面、規則正しく綿花ばかりを植え、近隣の女性を中心とする労働者がはじけた実の中にある綿を手で摘んでいく作業を繰り返していきます。
この綿花農場のでは生産性を上げるために、大量の化学肥料が畑にまかれ、また虫や病気の発生を抑えるために、大量の化学農薬が使われるのです。毎年同じ畑に同じ綿花が植えられるために、いわゆる輪作障害が起きて、年々化学肥料も農薬も大量に投入しなければ効果がなくなってきます。高価な農薬を買うために都市の生産性をあげる必要があり、単位面積あたり高密度に作付けが行われるようになりますが、そうなると日当たりが風通しが悪くなり、害虫や病気の被害がひどくなるのために、ますます大量の農薬が使われるという悪循環に陥っているのです。
同じ作物でも小麦やトウモロコシ、野菜など、食べる作物には農薬や化学必要の適切な使用量を決めたガイドラインがあり、チェックもされているのですが、綿花は口に入れるものではないので基準が甘くなったり、チェックが不足して、ますます大量の化学薬品が使われるようになります。
この結果、農場で働く労働者の健康被害が深刻で、手足のしびれが止まらない、農薬をまいたあとは何週間も吐き気が続くと言った症状だけでなく、農薬が原因と見られる死者、農薬を買うために借金をして返せなくなり、農薬を飲んで自殺する農移民がでるほどの状況になってきました。人間がこれだけ困っている状況なので、自然環境のほうはさらに悪化しています。大量にまかれた農薬や化学肥料は雨とともに近くの川や湖に流れ込みます。この結果、川では魚がまったくいなくなり、農園ができるまではそこで漁師として生活できていた人々が、失業しています。魚を食べる鳥やけものにも損害が及んでいます。
綿花に限らず、ヤシ油を取るためのアブラヤシのプランテーション(インドネシアやマレーシアなどに多い)でも似たような状況が起きています。
こういった状況を変えようとしているのが、「フェアトレード」(公正貿易)と呼ばれる新しい貿易のスタイルです。フェアトレードでは、農薬を使わなくてもすむような有機栽培の作付け方法を指導し、生産性が落ちた分を高く綿花を買い取っています。この綿花を、製糸、紡績、染色、縫製の各段階でも現地の人々の生活が成り立つように配慮しながら服をつくり、日本など先進国に輸入するのです。こうして輸入された服はインド産のふつうの綿花を使うよりも割高になりますが、服自体が化学薬品にまみれていないことから、アトピー性皮膚炎を患う人などにまず好まれています。ファッション性も高くなってきていることもあり、「環境や現地の生産者の健康によいのなら、多少高くなっても買いたい」という新しい消費者に支えられて、フェアトレードは少しずつ売上を伸ばし、人々の支持を受けてきました。
現在はコットン製品だけでなく、羊毛製品(編み物)、コーヒーなど食品、民芸品などさまざまな商品がフェアトレードで輸入されるようになってきました。インターネットで「フェアトレード」と検索をかければ、ヒット件数は5万件を超えるほどに広がりを見せています。
衣類に限らず、安いもののほうがうれしいと思う気持ちもありますが、その安さの裏側で、産地の自然が汚れ、関わる人がたちが低賃金で使われたり、農薬で病気になっているとしたら、それでもよいでしょうか? 多少高くついても、フェアトレードで輸入された商品を買うことで、彼の地の環境がよくなることに貢献できるのです。
もちろん、フェアトレードであっても自分が気に入らない服や製品なら買う必要がありません。しかし、もし何かを買おうと思った時、フェアトレードで輸入されたものはあるかな?と気にして調べたり、気に入ったものが見つかれば、思い切って地球のために少し余分な値段を出すというのはどうでしょうか。環境によいこととは、目の前のゴミをひったり、ゴミを分別することばかりではないのです。
★この記事は「nikkeibp.jp ビジネスイノベータ」の連載と同意用です。
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