アフリカ南部のジンバブエは黒人政権になってから、国内の白人に対する迫害を、国家公認で進めてきました。
ジンバブエは南アフリカ共和国と並んで、長い間イギリスの植民地で、多くの白人が渡ってきて大規模農園を切りひらきました。農園では黒人が労働者として働き、生計を立てています。いかにも豊かな先進国並の生活をする白人農園主に対して、黒人労働者の生活はかなり貧しいのは事実ですが、それでも多くの黒人たちはそれを日常として暮らし、結婚し、子をなし、自分の農園労働者としての仕事を子どもに引き継いできたのです。
ジンバブエ独立を武力で勝ち取った武装解放勢力は、政権を取ったあと、軍から退役した旧軍人を中心に、今度は強引に白人農園主からのうちを取り上げる行動を取り始めました。背景には独立時点でのイギリス政府との約束があり、白人農園主に対しては英国政府が補償金を出して、農園をジンバブエ政府に返還させる、ということになっていたのです。しかし英国政府はその約束を実行しないため、強制的に黒人たちが白人の、個人農園主を襲い、農園主を殺したり、大けがをさせたりして、農地から追い出し、そのあとを黒人で分け合うということを始めました。ムガベ大統領はこの国民の行動を公認し、支援しています。
実際に襲われる農園主は、すでに入植時点から3~4代の世代がたっていて(じいさんやひいじいさんが開拓した)、すでに本国には直接の身寄りがない、「ジンバブエ生まれの白人」です。農園を追われても、イギリスに帰るあてがあるとは限らず、都市部に出てつましい都市的な労働者になる人もいます。夫(父親)が襲われて殺されてしまい、とにかく命からがら街に出ていく家族もいます。同時に、農園で働いていた黒人労働者も、「白人の手下」として迫害され、暴行にあったり、妻を殺されてしまった黒人の労働者もいるし、旧農園労働者は、いずれにせよ農園主の死とともに、失業してしまうわけです。黒人による白人の迫害は、黒人同士の迫害でもあります。
米国のライス国務長官がジンバブエを非難するのは、こういった事情が背後にあるわけですが、しかしひっくり返せば、18世紀~20世紀の白人の歴史は、この逆の歴史だったわけです。白人が武力で黒人の土地に攻め入り、黒人を奴隷的な労働環境におき、多くの黒人を殺害したり迫害して、農園を切りひらきました。それと同じことを、今度は黒人が白人に対して行っている。しかも、かつての白人は、「黒人の土地」という他人の土地に入り込んだのに対して、今のジンバブエの黒人たちは「もともと自分たちの土地」を、取られたのと同じやり方で取り返しているだけなので、どちらがひどいことをしているのか、公平に考えれば、まだ黒人のほうに正義がありそうです。
ここで考えなければならないイシューは、今迫害されている白人農園主が、かつて黒人を迫害したじいさんやひいじさんの代の悪事の「責任を取らされる」ことが、正義と言えるのか、という点です。同じことはイギリスなど旧宗主国の政府にも言えて、100~200年前のイギリス人が行ったことの責任を、今のイギリス人が責任を取るべきなのか、というイシューだとも言えます。
たしかに現在の欧米の豊かさは、植民地支配によって多くの富を蓄積したことがひとつの理由で、その豊かさをもって償えと言うことは可能です。でもそれでいけば、さらに以前の歴史にさかのぼれば、逆の立場の関係になっている場合もあり、どこまでさかのぼって補償すべきかという問題は、そう簡単ではないことがわかります。
実はこの問題は、日本にとっても無縁ではありません。今中国との関係は、小泉首相の靖国神社参拝問題を巡って、政府間は冷え込んでいます。この問題のねっこは、現政府の長が靖国神社という、かつて、中国に対して侵略を行った日本人を「神として祀っている」ところに参拝することに対して、中国政府が文句をつけているという構造です。中国政府は、今の日本政府に対して、かつて中国に対して行った侵略行為の責任をもっと取りなさいと言っているのに対して、日本は「それはもうすんだことだ、今の我々には責任がない」といっていることに近くなります。本当はもうちょっと複雑ですが。
自分たちの世代のやったことではないことに対して、責任を取りたくないという側と、取らせないと納得できない側。別の言い方をすると、中国やジンバブエの側は、日本やイギリスに奪い取られたものがあり、それをまだ返してもらっていない、という思いが抜けていないということでもあります。取った人から取り返したいけど、とったほうも取られたほうもすでに死んでしまった。とったほうは「親父が取ったんだから、息子のオレには関係ない」といい、取られたほうは「親父が取られたんだから、息子のオレに返すのは当然」という。そういう関係なんでしょうね。
ちなみに、日本の民法では、親の借金はどうなるでしょうか? 子どもが親の財産を引き継ぐなら、借金も引き継げ。財産を放棄するなら、借金も引き継がないという方針です。親に財産がなく、借金だけなら、当然放棄して楽になるし、借金を引き継いでも財産が勝っているなら、財産も引き継ぐでしょう。
今の先進国は、親の世代が奪った財産は引き継ぎながら、借金は返したくないといっているようなところがあります。あるいは、返し始めると、引き継いだ財産より借金がどれほどふくらんでいくのかわからないから、口をつぐんでいると言うところでしょうか。
ジンバブエの白人農園の現状を見ると、いきなり黒人が襲ってきて父親が殺される白人農園主家族は本当のみじめです。でももっとひどいのは、白人農園で働いていたという理由で、黒人に、妻(黒人)を殺されてしまった黒人の夫(自分も白人農園の労働者)で、さらにみじめです。
そしてそうやって奪い取った農園を分け合って、生活を始める黒人たちは、それまでそこで働いていた黒人労働者よりもっとみじめに見える掘っ立て小屋で生活している。
これが世界を巡るひとつの状況です。あなたはこの「親の借金」問題を、どう考えますか?
▼asahi.comより
「ライス長官は白人の奴隷」ジンバブエ大統領、痛烈批判
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アフリカ南部ジンバブエのムガベ大統領が11日、同国を「圧制の拠点」と名指ししたライス米国務長官を「白人のご主人様(ブッシュ米大統領)の言葉を繰り返す奴隷」と痛烈に批判した。
AFP通信などによると、ムガベ氏は来月末に予定される総選挙の与党出陣式であいさつし、「黒人奴隷を先祖に持つあの少女(ライス長官)は、奴隷の歴史や米国内で黒人が置かれる状況から、あの白人(ブッシュ大統領)が我々の友人ではないと理解すべきだ」と述べた。
さらに、ライス長官がジンバブエやイランなど6カ国を「圧制の拠点」と名指しで批判したことに触れ、「あの白人(ブッシュ氏)は奴隷であるライス氏のご主人様だ。彼女はご主人様の言葉を繰り返すしかないのだ」。さらに「RICE(ライス氏の名前)をLICE(シラミ)と呼びそうになった」とも語り、こき下ろした。
同国で17年間政権を握るムガベ氏は、白人農園を強制収用して黒人に再配分する土地改革や報道規制などを実施している。「強権支配」と批判する欧米諸国とは対立している。
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